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「2017年版中小企業白書」を読む!(1)~第1部:平成28年度(2016年度)の中小企業の動向 会社設立/2017.09.28

みなさん、こんにちは。日本クレアス税理士法人 会社設立・創業サポートチームです。

 

今日から「中小企業白書」についての記事を掲載していきたいと思います。

お客様と接するなかで、「経済の状況や起業環境について知る良い方法はないですか?」という質問を受けることも多いのですが、その際におすすめしているもののひとつが、今回取り扱う「中小企業白書」です。

 

とはいえ、全体のボリュームが600ページ弱、と目を通すだけでも大変な量ですので、こちらの記事ではポイントを押さえながら、解説をしていきたいと思います!質問などありましたら、何なりとご連絡ください。

「中小企業白書」とは?

「中小企業白書」とは中小企業庁が毎年4月~5月にかけて発表している、中小企業とそれを取り巻く環境についての調査と分析です。国会に報告する目的で作成をされています(中小企業基本法第11条に基づく)。

 

なお、小規模企業振興基本法第12条に基づく年次報告書として「小規模企業白書」が2015年から発行されています。小規模企業白書の対象となるのは、従業員数が20人以下(商業・サービス業は5人以下)の小規模企業です。

2017年版中小企業白書の特徴

例年、中小企業白書は第1部で当該年度の中小企業の動向を分析、第2部以降で第1部での分析結果を踏まえて、その年のテーマに関する調査・分析結果を公表しています。2017年版も同様の構成となっていますので、詳しく見てみましょう。

目次

2017年版中小企業白書は2部構成となっています。

 

第1部:平成28年度(2016年度)の中小企業の動向

  • 第1章:中小企業の現状
  • 第2章:中小企業のライフサイクルと生産性
  • 第3章:中小企業の雇用環境と人手不足の現状

第2部:中小企業のライフサイクル

  • 第1章:起業・創業
  • 第2章:事業の承継
  • 第3章:新事業展開の促進
  • 第4章:人材不足の克服

第1部では中小企業をとりまく環境、ライフサイクルと生産性の関係、雇用という軸で分析がなされています。第2部ではそれらの結果を踏まえて、各ライフサイクルにおける成長と人材確保の取組について分析を行っています。

サブタイトルの意味

さて、中小企業白書には毎年サブタイトルがついています。中小企業庁が最も伝えたいこと(政策課題、問題意識)が、端的にまとめられています。2017年版は

中小企業のライフサイクル‐次世代への継承‐

です。企業数の減少や経営者の高齢化、という環境の中、事業承継が大きな課題として認識されている、ということが伝わってきます。

 

参考までに、過去の中小企業白書のサブタイトル一覧

中小企業基本法が改正された1999年(平成11年)以降のサブタイトル一覧です。

  • 1999年版(平成11年版):「経営革新と新規創業の時代へ」
  • 2000年版(平成12年版):「IT革命・資金戦略・創業環境」
  • 2001年版(平成13年版):「目覚めよ!自立した企業へ」 
  • 2002年版(平成14年版):「まちの起業家の時代へ」
  • 2003年版(平成15年版):「再生と企業家社会への道」
  • 2004年版(平成16年版):「多様性が織りなす中小企業の無限の可能性」
  • 2005年版(平成17年版):「日本社会の構造変化と中小企業者の活力」
  • 2006年版(平成18年版):「『時代の節目』に立つ中小企業」
  • 2007年版(平成19年版):「地域の強みを活かし変化に挑戦する中小企業」
  • 2008年版(平成20年版):「生産性向上と地域活性化への挑戦」
  • 2009年版(平成21年版):「イノベーションと人材で活路を開く」
  • 2010年版(平成22年版):「ピンチを乗り越えて」
  • 2011年版(平成23年版):「震災からの復興と成長制約の克服」
  • 2012年版(平成24年版):「試練を乗り越えて前進する中小企業」
  • 2013年版(平成25年版):「自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者」
  • 2014年版(平成26年版):「小規模事業者への応援歌」
  • 2015年版(平成27年版):「地域発、中小企業イノベーション宣言!」
  • 2016年版(平成28年版):「未来を拓く稼ぐ力」

サブタイトルを眺めていると、その年に何が起こっていたのかを思い出すことができますね。

2000年はITバブル、2003年は2002年に再生支援協議会ができたことが反映されたタイトルでしょう。2007年は小泉政権後に地域間格差がクローズアップされた時期と重なり、2009年・2010年はリーマンショック、そして2011年・2012年は東日本大震災からの復興を想起させるタイトルです。

第1部:平成28年度(2016年度)中小企業の動向

それではそろそろ、中小企業白書の中身を見ていきましょう!

第1章:中小企業の現状

2016年度の経済は、中小企業や小規模企業にとっても全般的に改善傾向にありました。

 

図1:企業規模別業況判断DIの推移

出典:2017年版中小企業白書(P5:第1-1-4図)

 

図1にあるように、中小企業の業況判断DIは2014年4月の消費税率引き上げに伴って大きく変動していますが、その後は緩やかな上昇を続けています。2016年に入ってから熊本地震の影響等を受けてはいるものの、2017年第1四半期では上昇しており、持ち直しの傾向にあります。

 

なおDI(ディフュージョン・インデックス)とは、日銀短観では「最近の業況について”良い”と答えた企業の割合から”悪い”と答えて企業の割合をひいたもの」、景況調査では「前期に比べて業況が”好転”と答えた企業の割合から”悪化”と答えた企業の割合をひいたもの」です。

DIがプラスであればあるほど、景況感が良い、ということになります。

 

※参考:日本銀行ウェブサイト「短観で使われている「D.I.」とは何ですか?」

    内閣府ウェブサイト「景況動向指数の利用の手引き」

 

図2:業況判断DI地域別分解(中小企業景況調査)

出典:2017年版中小企業白書(P10:第1-1-10図)

 

ただし2016年の動きを地域別に詳しく確認してみると、4月の熊本地震の影響もあり第2四半期は九州が大きく押し下げ、反動で第3四半期は九州が大きく押し上げています。第4四半期については、鳥取県中部地震の影響もあり、中国地方の押し下げ幅が大きくなっています。

 

このように地域ごとのばらつきや、地震等の自然災害の影響は随所にみられます。

 

図3:企業規模別設備年齢の推移

出典:2017年版中小企業白書(P13:第1-1-12図)

 

次に設備投資の状況をみてみます。

図3は企業規模別の設備年齢の推移ですが、中小企業と大企業の設備年齢が同水準だった1990年と比較すると、中小企業は設備年齢が約2.0倍となるなど、設備の老朽化が進んでいることがわかります。

 

図4:交易条件指数の推移(規模別)

出典:2017年版中小企業白書(P19:第1-1-17図②)

 

また、交易条件指数の推移に目を向けてみると、2000年代以降、中小企業と大企業の格差が拡大していることがわかります。このことは中小企業が仕入価格を販売価格に転嫁できていない可能性が高く、より厳しい取引環境に置かれている、ということを意味します。

 

交易条件指数とは販売価格DI(主要製品・サービスの販売価格が前期と比べ”上昇”と答えた企業の割合から、”下落”と答えた企業の割合を引いたもの)から仕入れ価格DI(主要原材料購入価格または主要商品の仕入れ価格が前期と比べ”上昇”と答えた企業の割合から、”下落”と答えた企業の割合を引いたもの)を差し引いたもの、です。

第2章:中小企業のライフサイクルと生産性

第2章では労働生産性の状況について解説しています。

 

図5:企業規模別従業員1人当たり付加価値額(労働生産性)の推移

出典:2017年版中小企業白書(P38:第1-2-20図)

 

労働生産性は特に中小企業において伸び悩んでいます。また大企業との差も、2009年以降、大きくなっています。

 

図6:業種規模別労働生産性上昇率の要因分解(2009年~2015年)

出典:2017年版中小企業白書(P40:図1-2-22)

 

労働生産性は、付加価値額を従業員数で除して求めますので、変動の要因は従業者要因か付加価値要因に分けられます。それを図にしたのが図6です。

 

ここで着目すべきは、大企業では製造業・非製造業ともに「付加価値額」が大きく増加しているのに対し、中小企業では「付加価値額」は製造業では減少、非製造業でも大企業ほど増加はしておらず、従業者数の減少によって労働生産性が押し上げられている、という点です。

 

図7:休廃業・解散企業の売上高経常利益率

出典:2017年版中小企業白書(P34:図1-2-14)

 

また、図7は休廃業・解散企業の廃業直前の売上高経常利益率を集計した図です。

業績が苦しいから休廃業する、というイメージを持ってしまいがちですが、実に休廃業した企業の半数超(50.5%)が黒字状態で休廃業しています。生存企業の中央値(2.07%)を上回る利益率の企業も32.6%あり、高収益ながら休廃業という選択をした企業も一定数存在することがわかります。

 

今後の経営者年齢の高齢化を考慮すると、早い段階から円滑な事業承継を想定しておかないと、経営資源を次世代に活かすことができず、長期的な観点での生産性向上がじつげんできない、という事態を招きかねません。

第3章:中小企業の雇用慣行と人手不足の現状

2016年の有効求人倍率は47都道府県すべてで1.0倍を超えており、全国的に求人数が求職者数を上回っていることがわかります。

 

図8:都道府県別有効求人倍率の水準(就業地別・2016年平均)

出典:2017年版中小企業白書(P67:第1-3-5図)

 

ただし、職種別に見てみると、どの職種でも有効求人倍率は2013年平均と比較して2016年平均は上昇しているものの、事務的職業、運輸・清掃・包装等の職業では1倍を下回っています。

 

図9:職業別有効求人倍率(パートタイム含む常用) 

出典:2017年版中小企業白書(P70:第1-3-7図②)

 

次に図10の雇用形態別の求人の状況を見てみると、2013年から2016年にかけて全ての雇用形態で求人数が増加する一方で、常用を中心に求職者数は減少し、全ての雇用形態で求人数が求職者数を上回っています。これより、企業と求職者側の雇用形態のミスマッチは解消しつつある、と推測できます。

 

図10:雇用形態別有効求人数と有効求職者数(2013年~2016年)

出典:2017年版中小企業白書(P71:第1-3-8図)

 

それでは中小企業の雇用環境をもう少し詳しくみてみます。

 

図11:規模別給与額の推移

出典:2017年版中小企業白書(P81:第1-3-16図)

 

中小企業の離職理由として「収入が少ない」ことがあげられることが多いですが、図11で実際の賃金水準を見てみるとここ20年間ほど、大企業と中小企業で賃金格差は解消されないままであることがわかります。

 

図12:現職の従業者規模別現職の入社理由の割合

出典:2017年版中小企業白書(P83:第1-3-18図)

 

一方で、図12にあるとおり現職への入社理由に目を向けてみると、どの規模の企業であっても最も多いのが「仕事の内容に興味」であり、企業規模が小さくなるにつれてその割合は高まっています。仕事内容に魅力があり、柔軟な働き方が出来る場合には中小企業が働き先として選ばれていることがわかります。

 

どのライフサイクルにおいても、その企業を支える人材の確保は重要な課題です。第2部では人材確保の取組についても詳しく解説されています。


2017年版中小企業白書の第1部を通じて、中小企業が構造変化の真っただ中に置かれていることがわかりました。

さて、次回は第2部第1章、このサイトと最も関連が深いテーマである「起業・創業」について取り上げます。起業・創業を取り巻く環境を分析結果を通じて確認していきましょう。

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