2006年(平成18年)に新会社法が成立するまでは、旧商法にて最低資本金制度が採用されていました。資本金の規定は株式会社が1,000万円以上、有限会社が300万円以上となっていました。
しかし、旧商法、旧有限会社法の最低資本金制度が「創業の円滑化を妨げている」のではないかと指摘されることも多く、創業をより円滑に行えるようにするため、新会社法では最低資本金制度が撤廃されました。
資本金はいくら必要?(会社法)
それでは新会社法では資本金に関するルールはどのようになったのでしょうか?
新会社法の施行により、少額の資金によって株式会社を設立することが可能になりました。「1円起業」という言葉が話題になりましたので、記憶にある方もいらっしゃるのではないでしょうか。
例えば資本金の額を1円とした場合、資本金に加えて設立の際に最低限必要な以下の費用が手配できれば、株式会社を設立することができます。
- ● 公証人による定款認証手数料:50,000円
- ● 定款貼付の収入印紙代:40,000円 ※電子認証の場合は不要です
- ● 登録免許税:150,000円 ※設立登記1件あたりの最低金額。資本金の1,000分の7の金額と定められています。
- ● 法人印鑑の作成費用、印鑑証明書の交付費用
なお、合同会社も同様に資本金の制限がなく、加えて定款認証が不要で登録免許税も60,000円と株式会社と比べて抑えることができるので、より費用を抑えて設立をすることができます。
資本金を決めるためのポイント
とはいえ「1円」で法人を設立するのは現実的ではありません。
例えば資本金が極端に少ないことが原因で、
- ● 開業後の運転資金が不足してしまい、債務超過に陥ってしまう
- ● 銀行などから融資を受けられない
- ● 取引先から信頼を得ることができず、契約を断られる
といった事態が発生してしまうことが懸念されます。
現実的には、以下のポイントを踏まえながら資本金の適正額を決めていくとよいでしょう。
ポイント1:運転資金
運転資金を基準に考える場合、最初の売上が入るまでに必要な金額を考えます。
法人取引は掛取引で行われることも多いので、実際の入金が商品やサービスの提供の翌月や翌々月になることもしばしばです。
事業を開始してから最初の入金があるまでに、仕入代金や家賃、水道光熱費、通信費、旅費交通費、備品、広告宣伝費、人件費等の様々な支払いが発生します。支払いが滞ってしまうと、経営が行き詰ってしまいます。
従って、売上金の入金までに発生する経費等を資本金で賄わなければなりません。
個々の会社の状況に応じて変わってきますが、一般的には少なくとも3ヶ月分の費用支払ができる状態が好ましいとされます。
まとめると
資本金の金額 = 会社設立時に必要な費用 + (少なくとも)3ヶ月分の費用
となっていると、会社の運営上の安全性は高くなります。
ポイント2:資金調達
金融機関から融資を受けようとする場合、「自己資金」に関する要件がついていることが多いです。
例えば、日本政策金融公庫の新創業融資を受けようとする場合、「事業全体にかかる経費の1/10以上」の自己資金を用意しておく必要があります。
※かつては「1/3以上」の自己資金が必要とされていましたが、要件が緩和されました
※「中小企業経営力強化資金融資」のように自己資金の要件がない制度もあります
ポイント3:許認可
許認可を必要とする事業を行う場合は、「最低資本金が」設定されている場合があります。
例えば、一般建設業においては
①自己資本が500万円以上あること。
②500万円以上の資金調達能力のあること。
上記も①、②のいずれかを満たす必要がある、と定められています。
ポイント4:税金の負担
資本金が1,000万円未満の法人は、会社設立1期目・2期目は消費税の納税義務がありません。
※ただし、1期目の半期の売上高または給与の支払額が1,000万円を超えると、2期目は消費税の課税事業者になります
また、各自治体によって異なりますが、法人住民税の均等割りも資本金が1,000万円超となることで負担が大きくなります。
ポイント5:信用面
資本金の額は「与信管理」の面でも重要になってきます。
与信とは売掛債権を例にとると、
販売による「売掛金」→回収による「受取手形」→取立による「現金・預金」
の間をさします。与信管理とは、「この企業と取引しても問題ないか」、「この企業とはいくらまで取引額を増やしても大丈夫か」という判断を取引先ごとに行うことです。
企業間取引では掛取引がしばしば行われますので、経営の安全性を高めるには与信管理が重要になってきます。
新規取引の際、資本金の額があまりに小さいと、財務的に不安定な会社、信用力が低い、と判断されがちです。
円滑な取引のためにも、極端に資本金の金額を少なくしないほうがよいでしょう。