会社設立の流れについてまとめました。
記事のところどころに筆者が会社設立を経験した際のエピソードや失敗談も載せています。
こちらの記事が会社を作ることを決意した方、将来起業することを目標にしている方のお役に立てば嬉しいです。
0.会社設立の手続きを始める前に
事業計画書について
会社設立を考えられる方は、手掛けている事業の成長可能性や勝算を感じ取り、また、誰よりも強い志でその事業を成功させようと、邁進されていると思います。
設立の実務に移られる前に、ぜひ、手掛けている事業がおかれている環境、自社の強みやセールスポイントを整理しておくことをおすすめします。
できれば簡単で構わないので「事業計画書」の形にしておくとよいでしょう。
事業計画書を使う場面
事業計画書を使う場面としては、やはり融資の申込の場面が真っ先に思い浮かぶでしょう。
そして、筆者の実体験として、事業計画書は会社設立後の会社のシナリオ、やるべきことのチェックリスト、としての意味が大きいのではないかと感じています。
事業が立ち上がったきっかけは創業者の動物的カンやたまたま舞い込んだ機会をものにした、というケースも少なからずあるでしょう。しかし、事業を継続し成長させる、となると話は別です。経営意思判断の優先順位を明確にし、会社をあるべき方向に導いていくためにも事業計画書は作成するべきでしょう。
本当に法人化(法人成り)すべきなのか?
さて、法人化する以外にも事業を継続する方法はあります。フリーランスや個人事業主としてサービスを提供することができます。
法人化についてもメリット・デメリットがありますので、設立の実務に入る前に、今一度整理しておくとよいでしょう。
法人化(法人成り)のメリット
- ● 信用度が上がる→法人でないと取引が出来ない企業もあります。資金調達や人材の採用の面でもメリットは大きいでしょう。
- ● 節税効果→給与所得控除や配偶者控除、扶養控除等の仕組みを活用することができます。退職金にも税金の面で優遇措置があります。その他にも様々な税金に関するメリットがありますので、会社設立に税理士に相談してみるのもよいでしょう。
- ● 借入れの際に、社長が保証人になることができる(第三者にお願いしなくてもよい)
- ● 許認可事業や公共事業への入札の際に有利になることがある
- ● 法人でないと受けられない助成金がある
法人化(法人成り)のデメリット
- ● 法人登記の費用がかかる
- ● 法人住民税の均等割りが発生する
- ● 社会保険の加入義務が生じる
- ● 個人の場合よりも税務調査に入られる確率が高い
上記のメリット、デメリットはあくまで一例です。
携わる事業内容によっても大きく変わってくることも多いですので、慎重に判断していくようにしましょう。
1.会社の種類を決める
ひとくちに「会社」と言っても、実は4種類の会社があります。
出資者の責任範囲と会社の意思決定の方法によって、以下の4つに分かれます。
※出資者の責任の種類には
・無限責任…会社の債務に関して連帯して無限の責任を負う
・有限責任…会社の債務に関して、出資額を限度として責任を負う
の2種類があります。
- ● 合名会社・・・合名会社は全ての社員(=出資者)が、会社の債権者に対して直接責任を負う「無限責任社員」です。
- ● 合資会社・・・合資会社には「無限責任社員」と「直接有限責任社員」の両方の社員が存在します。「直接有限責任社員」は予め決められた出資額の限度で、債権者に対して連帯して責任を負います。
- ● 株式会社・・・「有限責任社員」で構成されます。株式会社は出資割合に応じて、株主総会での議決権割合が決まります。
- ● 合同会社・・・「有限責任社員」で構成されます。合同会社は出資割合に関係なく、総社員の同意をもって意思決定を行います。
会社を設立したり法人成りをしたりするメリットのひとつに、個人のもとから事業リスクを分離できる、ということが挙げられます。
このメリットを享受するには、有限責任社員のみで構成される株式会社か合同会社を選ぶのがよいでしょう。
株式会社なのか合同会社なのか
株式会社と合同会社にはそれぞれ後述するような特徴がありますが、迷ったら株式会社を選ぶのがよいでしょう。
日本の法人の多くが株式会社であり、一般的な認知度も高く、将来、会社の拡大を志向している場合、新たな出資者を募りやすいという利点もあります。
株式会社の特徴
- ● 日本では認知度が高く、客観的なイメージが良い:日本で設立される法人では株式会社の数が多く、一般的な認知度も高いですね。
- ● 将来会社を大きくしたい場合、新たな出資者を募りやすい:出資者全員の承認までは不要、とすることができるため、スムーズに新たな出資者を募ることができます。
- ● 配当を行う場合は、出資割合に応じて配当金を支払う
- ● 設立時に定款認証が必要、登録免許税が合同会社よりも高い
- 株式会社の登録免許税は150,000円で、合同会社の60,000円よりも高いです。
- ● 決算公告が必要
合同会社の特徴
- ● 海外ではLLCとして認知度が高い
- 外国会社の日本法人が合同会社の形態で設立されることも多いです。
- 例:Apple Japan合同会社
- 日本ケロッグ合同会社
- シスコシステムズ合同会社、等
- ● 配当は出資割合に関係なく行われる
- 合同会社の配当は出資の割合と関係なく設定することができますが、総社員の同意が必要になります。
- ● 設立時の定款認証が不要で、登録免許税は株式会社よりも安い
- ● 決算公告が不要
2.設立費用を確保する
資本金以外にも、法定の設立費用がかかります。下記を参考に設立を希望する会社形態に応じて、設立費用を確保しましょう。
株式会社の設立費用
- ● 収入印紙代(電子定款の場合は不要):40,000円
- ● 登録免許税:150,000円
- ● 公証人手数料:52,000円(公証人による定款認証は不要)
- ● 定款の謄本手数料(登録手続きに必要):約2,000円(1ページ250円)
- ⇒合計:約244,000円 or 約204,000円
合同会社の設立費用
- ● 収入印紙代(電子定款の場合は不要):40,000円
- ● 登録免許税:60,000円
- ● 公証人手数料:0円(公証人による定款認証は不要)
- ● 定款の謄本手数料(登録手続きに必要):約2,000円(1ページ250円)
- ⇒合計:約102,000円 or 約62,000円
電子定款について
電子定款の場合、収入印紙代40,000円が不要になり、一見お得に見えますが、専用の機器が必要になり、また、作成の手間や認証の手続きを考えると、手間も時間も高くついてしまう場合が多いです。慎重に検討しましょう。
- ※電子定款の作成に必要な機器
- ● 電子証明書付きの住基カード(1,000円)
- ● ICカードリーダライタ(約2,000~7,000円)
- ● Adobe Acrobat もしくは Adobe Acrobat DC(約35,000円)
3.まず決めておく10このことを決める
それでは、まずは登記に必要な10のことを決めましょう!
①商号
商号に使える文字は漢字、ひらがな、カタカナ、ローマ字、アラビア数字、一部の符号、と決められています。「株式会社」、「合同会社」などを前にするのか後にするのかも含めて決めましょう。
また定款には会社名の英語表記を定めることもできるので、合わせて検討してみるのもよいでしょう。
そしてポイントは「同じ住所に同じ名前の会社がないか」を確認することです。同一住所同一名称の会社があった場合、登記が出来ません。
またインターネット(ウェブ)を使ったビジネスを行う場合や、インターネットを使った集客が重要になる事業内容の場合、ドメインが取得可能かどうか、SEO(検索エンジンで検索された場合、好ましい形で検索されるか)の観点から問題ないか、ということも合わせてチェックしておくのがよいでしょう。
②事業目的
事業目的の決め方のポイントは以下のとおりです。
● 細かく決めすぎない
会社は定款に記載される事業目的内でのみ、営業が可能になりますが厳密に決めすぎないようにしましょう。
また、将来的にやろうとしている事業がある場合も、記載しておくとよいでしょう。事業目的を追加・更新する場合は定款変更の手続き費用30,000円がかかってしまいます。
● 営利性を追求した事業目的
株式会社の目的は「営利追求」です。全く利益を上げられない事業目的を記載することはできません。
● 法令や公序良俗に反したものは認められません
● 特定の資格を持つ人(税理士、弁護士など)のみに認められている「独占業務」とされている事業も事業目的にすることはできません
● 一般に広く使われている語句で明確に記載する
もし不安な場合は法務局で事業目的の事前確認を受けることもできます。
● 許認可事業を行う場合は、特定文言を含めておかねばならない場合があります
☆おまけ:実際の事業目的記載例(インターネットサービス業です)
- コンピュータのソフトウェアの企画、開発、販売及び維持管理
- コンピュータネットワークシステムの企画、立案、開発、販売及び維持管理
- コンピュータの周辺機器の製造及び販売
- インターネットメディア及びコンテンツの企画、開発、運営
- データベース事業
- マーケティングリサーチ業
- 広告宣伝に関する企画、製作、コンサルティング
- 各種イベント企画・講演会等の企画・運営
- インターネットを利用した事業者紹介業
- インターネットにおける求人情報サービス業
- 広告代理業
- 経営コンサルタント業
- 通信販売及び支援業
- 出版業
- 輸入・輸出業
- 物品販売業
- 会員サービス業
- 損害保険及び生命保険の保険代理業
- 不動産の売買、賃貸借、交換及びその仲介並びに所有、管理及び利用
- 前各号に付帯する一切の事業
③本店所在地
本店とは、登記上の会社の本拠地のことです。必ず1つでなければいけません。
いわゆる「本社」とは必ずしも一致している必要はありません。
定款には本店所在地として、定款には「○○県○○市」まで定めておく必要があります。実務上も「○○県○○市」まで定めておく方がよいでしょう。
仮に住所を全て記載していた場合、同一市内や同一区内での引っ越しであっても、定款変更手続きが必要になってしまいます。
④株式に関する事項(※株式会社の場合)
株式に関しては様々なことを決めておかねばなりません。見ていきましょう。
(1)発行可能株式総数と株価
発行可能株式総数(=最大で発行可能な株数)と1株あたりの株価を決めます。株価は自由に決めることができます。
一般的にはわかりやすく1株10,000円としたり、かつての「額面株式」の名残でしょうか、1株50,000円とされるケースも比較的多く見受けられます。
※「額面株式」が、2001年10月1日の商法改正に伴って廃止されました
もし将来的に増資を検討している場合は、将来目標としている資本金額を目途に、発行可能株式総数や株価を決めるとよいでしょう。
(2)設立時の発行済み株式総数
設立時の発行済み株式総数は、
会社の資本金額 ÷ 株価(1株あたりの発行価格)
で決まります。
(3)株主構成
株式会社の特徴の一つですが、株主は「所有する株数に応じて」議決権を持つことになります。よく株式の持分比率で「過半数」にあたる数字が注目されるのもこのためです。
過半数の株式を持っている場合、株主総会普通決議で議決可能な事項、例えば取締役の選任・解任が可能となります。
従って経営の意思決定を行うためには、必ず過半数を自らが所有するようにしましょう。特に設立時の手続きを簡単にしたい、とご希望の場合は、出来れば100%を所有するのがよいでしょう。
(4)株式の譲渡制限
株式の譲渡制限とは「株式を売買するためには株主総会や取締役会の承認を得る必要がある」という意味です。
中小企業で不特定多数の株主が存在すると、経営陣の意向が会社経営に反映し辛くなり、不都合な意思決定が行われてしまう可能性があります。従って、ほとんどの日本の中小企業が譲渡制限株式会社となっています。
(5)株券の発行について
会社法では、定款に株券を発行する旨を定めない限り、株券を発行する必要はない、と定められています。
株券の不発行によるメリットは
- ● 株券を発行するコストがかからない
- ● 株券の管理コストがかからない
- ● 株券の盗難、偽造、紛失の恐れがなくなる
といったものが挙げられます。
⑤役員に関する事項
(1)機関設計
会社の「機関」とは、株主総会、取締役、取締役会、監査役、会計参与など、会社の意思決定や業務執行を行うもののことです。これらの機関の組み合わせを決めることを「機関設計」と言います。
会社法上、株主総会と取締役は全ての株式会社に設置しなければなりませんが、その他の機関については自社に適した機関設計を選択可能です。
設立する会社の機関設計にあたっては、まず取締役と代表取締役を決めましょう。
株式譲渡制限会社の場合は、最低1名の取り締まりがいればよく、その1名の取締役が代表取締役となることができます。
株式譲渡制限がついていない会社の場合は、取締役会(最低3名の取締役から構成されます)と監査役1名が最低限必要になります。
「株式譲渡制限がついていない会社=出資者が複数いる」と、取締役会を置いたほうが会社の意思決定がスムーズに行われます。特に外部の出資者がいる場合は、取締役会が存在するメリットは大きいでしょう。
仮に取締役会がなかった場合、株主総会によって多くの意思決定がなされることになります。会社の意思決定が必要な度に、株主の意見をその都度聞きに行くのは大変な手間となります。
(2)取締役の任期
取締役の任期は通常では2年ですが、株式譲渡制限会社の場合は最大10年まで延長することができます。
1人取締役(社長1人)であれば、最長の10年にしておくのがよいでしょう。登記の手間や費用を節約することができます。
(3)取締役会について
取締役会とは3名以上の取締役からなる、会社の意思決定機関のことです。
会社法では取締役会の設置は原則任意となっており、新規で設立される株式会社の多くが取締役会を設置しません。
ただし、上記(1)の項で述べたとおり、株式譲渡制限がついていない会社の場合は、取締役会があることで意思決定がスムーズになるというメリットがあるため、設置を検討するとよいでしょう。
⑥設立日
会社設立日=会社の設立登記を申請した日、です。
法務局が休みの日は設立日にすることができないので、特定の日付を設立日としたい場合は、注意しましょう。
法務局の業務取扱時間は平日のAM8:30~PM5:15です。
土曜日、日曜日、国民の祝日等の休日、年末年始期間(12/29~1/3)は業務の取り扱いをしていません。
※詳しくはコチラ→ 法務局ウェブサイト「業務のご案内」
⑦資本金(設立時財産価額)
会社の設立時に出資する金額のことを「資本金」と言います。
資本金は、一般的に
会社設立時に必要な費用 + 3ヶ月分の固定費
の額が準備されていると安心、とされています。
売上が入金されない間(掛取引を行う場合、実際に入金されるのは1ヶ月~3ヶ月先になります)も、家賃や水道光熱費、通信費などの固定費は支出されますし、従業員を雇用している場合は給与の支払も発生します。この間の運転資金として、固定費の3ヶ月分を目安に考えておくと安心です。
資本金の集め方
- ● 発起設立(ほっきせつりつ)→会社の創業者が自身のお金から資本金を出すことです
- ● 募集設立(ぼしゅうせつりつ)→投資家などの会社外部の人から出資してもらうことです
手続きは発起設立の方が簡単です。
許認可事業を行う場合の注意点
「最低資本金」の額が設定されている業種があります。注意しましょう。
例)一般労働者派遣業:2,000万円、有業職業紹介事業:500万円、等
税務上の取り扱い(消費税)
資本金の額を1,000万円以上にすると、初年度から消費税の課税事業者になります。1,000万円未満の場合は最初の2期の消費税は免除となります。
創業融資を受ける場合
金融機関から創業融資を受ける場合、自己資金の要件が付けられていることが多いです。
融資を受けることを検討されている場合は、資本金額を高めに設定しておくとよいでしょう。
⑧決算期
会社は1年以内の期間で事業年度を自由に定めます。「1月1日~12月31日」、「4月1日~3月31日」という具合に定めます。
この事業年度の最後の月を「決算期」や「決算月」と言います。3月決算、12月決算の企業が多いですが、特にこのタイミングにこだわる必要はなく、以下の3つのポイントを踏まえて決めていくとよいでしょう。
(1)消費税の免税期間を最大にする
設立時の資本金が1,000万円未満の株式会社は、設立2期目までの消費税が免税となります。決算期を考える場合、免税期間をなるべく長くするように決める、というのをひとつの判断基準としてもよいでしょう。
免税期間の考え方の例)
例えば「7月2日」に設立をした法人があったとします。
この場合、6月を決算期とした場合は、1年目は7月2日~6月30日、2年目は7月1日~6月30日となり、24ヶ月が免税期間となります。
しかし、7月を決算期とした場合は、1年目は7月2日~7月31日、2年目は8月1日~7月31日となり、13ヶ月が免税期間です。11ヶ月も損をしてしまうことになります。
(2)資金繰り
法人税や地方税、消費税は決算期から2ヶ月以内に納付しなければいけません。
資金繰りに余裕がある時期を決算月とし、確実に納税が出来るようにする、という判断基準も重要です。
(3)事業の繁忙期
事業内容によっては特定の月が多忙になる、ということもあるでしょう。そのような場合は繁忙期にあたる月を決算月にするのは避けたほうがよいでしょう。
適切な節税対策を行い、利益を確保するための営業戦略を立てるためには、納税シミュレーションが欠かせません。決算月が繁忙期にあたると、利益の予測がたてにくく、それに伴って納税額も予想がつけにくくなる、というデメリットがあります。
また、決算月は通常期では発生しない棚卸業務や各種書類の整理などの業務が発生します。繁忙期に事務作業が増えてしまうと、本来の事業活動にも支障がでてしまいます。
なお、決算月から2ヶ月後が税金申告の期限となります。決算月から2ヶ月間は繁忙期と重ならないよう留意しましょう。
⑨公告の方法
株式会社は決算が終わったあとに、決算公告をすることが義務付けられています。
公告の方法は以下の3つのうちから選択することができます。
(1)官報
(2)時事に関する事項を掲載する日刊新聞
日刊新聞による公告を行う場合は、定款にその新聞の発行地を記載しないことも可能ですが、発行地の定めがないにもかかわらず地方版などに公告を掲載した場合などに、認められない可能性があります、発行地を特定する方がよいでしょう。
(3)電子公告
電子公告による公告を行う場合は、定款に「当社の公告方法は電子公告とする」と定めるだけでよいです。
定款に上記の定めがない場合は、官報に掲載する方法となります。ただし、銀行、銀行持株会社、保険会社、無尽会社等については官報による公告は不可能です。
⑩会社の印鑑の準備
会社の設立登記をする際には法人の印鑑が必要になります。作成する印鑑は
- ● 代表社印(実印)
- ● 銀行印
- ● 社印(角印、会社印)
の3つがあればよいでしょう。
義務として持つ必要があるのは「代表社印」のみですが、実務上の利便性とリスクを考慮して、上記の3つを作成するのがよいでしょう。
また、合わせて会社名、会社住所・電話番号、代表者名等のゴム印も作っておくと便利でしょう。ゴム印は固定式(全てがひとつの印鑑に記載されているもの)ではなく、パーツごとに組み合わせられるタイプが便利です。
※参考)アスクル 組み合わせ印
4.定款を作成する
必要事項が決まったら、いよいよ定款(ていかん)を作成します。
定款は「会社の憲法」と言われることもある、会社のルールを記載したものです。設立時に作成したものをずっと使い続けます(設立時に作成する定款のことを「原始定款(げんしていかん)」と言います)。
定款の内容に変更が生じた場合は、原始定款の後ろに変更事項を足していきます。前項で(例えば本店所在地など)、変更手続きが生じるため記載方法に工夫したほうがベター、と書いていたのは、この方式で定款が更新されるためです。
定款に記載する事項
定款に記載する事項には3つあり、
- 絶対的記載事項
- 相対的記載事項
- 任意的記載事項
に分類されます。
(1)絶対的記載事項(会社法第27条)
会社法第27条において、株式会社の定款には次に掲げる事項を記載しなければならないとされています。
ひとつでも欠けていると、その定款は無効になってしまいます。
- 一、目的
- 二 、商号
- 三 、本店の所在地
- 四 、設立に際して出資される財産の価額又はその最低額
- 五 、発起人の氏名又は名称及び住所
(2)相対的記載事項の例
「相対的記載事項」とは、定款に記載しなくても無効にはならないが、記載しなければ法的効力が発生しない事項のことです。
相対的記載事項の例には以下のようなものがあります。
- ● 取締役会、監査役などの機関設計→取締役会を設置しないことも可能です
- ● 現物出資(金銭以外の財産出資)
- ● 株式の譲渡制限の承認機関→取締役会が無い場合は株主総会が承認機関となります。取締役会がある場合は、取締役会か株主総会のいずれかが承認機関です。
- ● 単元株式数、株券発行の有無→株券は原則不発行となっていますが、発行する場合は定款に定める必要があります。
- ● 取締役の任期→株式譲渡制限会社の場合は通常2年のところを、10年まで延長することができます。
(3)任意的記載事項の例
「任意的記載事項」とは、定款記載することが全く任意である事項のことです(公序良俗や法律に反しないものでなければなりません)。
任意的記載事項の例には以下のようなものがあります。
- ● 定時株主総会の招集→招集の時期や招集通知について決めます。
- ● 株主総会の議長→通常は「社長が議長になる」と定めています。定めがない場合は、株主総会で議長を選任します。
- ● 取締役、監査役の人数
- ● 役員の氏名
- ● 事業年度→初年度は設立日から営業年度がスタートし、最終日は決算日となります。
- ● 会社の公告方法(会社法第939条第1項)→官報、自社ウェブサイトや日刊新聞紙への掲載が必要となります。
5.公証人による定款認証
株式会社設立の場合は、作成した定款に発起人全員が押印した後、公証役場で定款が適法であることを証明してもらう必要があります。
公証役場へは定款を3通(公証役場用、登記用、会社用)作成し、持参するようにしましょう。
6.出資金の払い込み
会社の発起人名義の通帳に出資金を振り込みます。このとき通帳に名前が印字されるように注意しましょう。
なお、定款認証前から発起人の個人口座にあった金銭は払込とは認められませんので、この場合は一度出金して口座の残高をゼロにし、その後に改めて入金する必要があります。
振込が完了した通帳のコピーが払込証明書となります。
通帳の表紙、表紙を開いた次のページ(店番、口座番号等が記載されているページです)、振込の明細が記載されたページのコピーをとるようにしてください。
7.登記申請
会社の本店となる場所の管轄法務局に会社設立登記申請書、添付書類等を提出します。
※管轄法務局はこちらから探すことができます→法務局ウェブサイト「管轄のご案内」
登記申請の日付が「会社の設立日」となります。
ここまで完了して、「登記完了=会社設立」です。
おめでとうございます!
しかし登記後にも様々な届出を行う必要があります。以下の項を参考にしてください。
8.税務署、その他の諸官庁へ会社設立後の届出を行う
会社の設立登記完了後には、速やかに税務署等への届出を行いましょう。
なお、実際の届出は煩雑な作業も含まれていますので、税理士や社会保険労務士などに相談して進めるのもよいでしょう。
(1)税務署への届出
税務に関する届出を行います。
届出先は、定款に記載している本店所在地を管轄する税務署です。
※管轄税務署は国税庁のウェブサイトで確認できます → 税務署の所在地などを知りたい方
手続きは郵送でも行うことができますが、郵送の場合は封筒に切手貼付した返信用封筒と書類を2部ずつ(提出用と保管用)入れて送付するようにしてください。
税務署への提出書類①:法人設立届出書
法人設立届出書とは、税務署に対して会社を設立したことを届け出るための書類です。法人設立後、2ヶ月以内に提出しなければなりません。
申請書は国税庁ウェブサイトの「内国普通法人等の設立の届出」よりダウンロードして入手できます。また、以下の書類の添付が必要ですので手配しましょう。
- ● 認証済みの定款のコピー
- ● 登記簿謄本(コピー可)
- ● 設立時の貸借対照表
- ● 株主名簿
税務署への提出書類②:青色申告書の承認の申請書
法人の国税の申告は「青色申告」と「白色申告」の2種類があります(個人の場合と同じです)。
青色申告を行うと以下のようなメリットがあります。
- ● 9年間の繰越欠損金
- →過去の決算の赤字を9年間繰り越して黒字分と相殺することができます
- ● 少額資産の一括償却
- →年間300万円という上限がありますが、30万円未満の固定資産の全額を購入した年の経費にすることができます。
- ● 特別償却、特別控除
- →一定の条件を満たした場合、減価償却を通常より多く計上できる特別償却や、法人税を一定額控除できる特別控除等の制度を使うことができます。
青色申告で納税するためには「青色申告書の承認の申請書」が必要です。提出期限は会社設立後3ヶ月以内、もしくは、最初の事業年度の末日、となります。
こちらも国税庁のウェブサイトから書式をダウンロードすることができます →「[手続名]所得税の青色申告承認申請手続」
税務署への提出書類③:給与支払事務所等の開設届出書
給与の支払が行われる場合、税務署に提出する書類です。
給与は損金として取り扱えるため、税金対策上も大きなメリットがあります。
書式は国税庁ウェブサイトからダウンロードできます→[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
税務署への提出書類④:源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
給与を支払う人数が常時9名以下の場合は、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出することで、源泉所得税の納付を1/20と7/10の年2回とすることができます。
申請しない場合は、毎月10日までに前月分の源泉所得税を納付しなければなりません。
この特例は設立すぐの会社の負担を軽減するための措置ですので、申請可能であれば申請しておくのがよいでしょう。
申請書は国税庁ウェブサイトよりダウンロードできます→ [手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請
税務署への提出書類⑤:減価償却資産の償却方法の届出書 ※任意提出
減価償却の方法は原則として「定率法」となります。原則にどおり定率法を選択する場合は提出の必要はありませんが、定額法などの他の方法を選択する場合は提出が必要です。
申請書は国税庁ウェブサイトよりダウンロードできます→ [手続名]所得税の減価償却資産の償却方法の届出手続
税務署への提出書類⑥:棚卸資産の評価方法の届出書 ※任意提出
棚卸資産には9種類の評価方法があります。
評価方法が決まったら、税務署に棚卸資産の評価方法の届出書を提出します。期限は最初の確定申告の提出期限までです。もし提出しなかった場合には、最終仕入原価法という方式を取らなければならなくなります。
こちらも申請書は国税庁のウェブサイトからダウンロードできます→[手続名]所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続
(2)都道府県、市区町村への届出
地方税の納税のために、法人設立届出書の提出が必要になります。
書類の様式は提出先の都道府県、市区町村によって異なるため、それぞれの提出先に確認しましょう。ウェブサイトからのダウンロードが可能になっている自治体が多いです。
提出する際には、
- ● 認証済み定款のコピー
- ● 登記簿謄本(コピー可)
を添付してください。
(3)年金事務所への届出
社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入手続きを行います。
会社の設立日から5日以内に、以下の書類を提出してください。
- ● 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- ● 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
- ● 健康保険被扶養者(異動)届
(4)労働基準監督署への届出
労働基準監督署では、労働保険関連の手続きを行います。
下記の書類を提出します。
- ●労働保険 保険関係成立届
- →保険関係が成立した日から10日以内に提出をします。登記事項証明書を添付してください。
- この書類はハローワークに雇用保険適用事業所設置届を提出する際に控えを添付する必要がありますので、コピーをとるようにしましょう。
- ●労働保険 概算保険料申告書
- →保険関係が成立した日から500日以内に提出します。
- また、雇用する従業員が10名を超えた時は、就業規則届も必要です。
(5)ハローワークへの届出
雇用保険関連の手続きを行います。下記2点の書類を提出します。
書類の記入は、ハローワークの窓口で行うことができます。
雇用保険適用事業所設置届
設置の日から10日以内に提出します。
添付書類の例として
- ● 「労働保険 保険関係成立届」の写し ※事前に労働基準監督署に提出したものの写し
- ● 労働保険概算保険料申告書
- ● 登記簿謄本
- ● 事業所の賃貸契約書の写し
- ● 設置時点で被保険者となるもの全員の雇用保険被保険者しあく取得届、法人成立届、事業所あてに配達された郵便物(事業所の稼働を証明します)
等が必要になってきます。
必要になる書類は、事前に届け先のハローワークに確認しておくとよいでしょう。
雇用保険 被保険者資格取得届
資格取得の事実があった日の翌月10日までに提出をします。
添付書類は
- ● 賃金台帳
- ● 労働者名簿
- ● タイムカード(出勤簿)
- ● 雇用契約書等の雇用したことを証明する書類
です。
手続きの際には、法人の実印を持参するとスムーズでしょう。