中小企業を営んでいる場合、役員報酬の決定は、会社の利益や法人税・所得税の納税に関係する重要な事項です。しかし、役員報酬をめぐる法律は細かく複雑で、どのように決定すればよいかお悩みの方もたくさんいらっしゃると思います。
今回は、会社の損金として認められるための役員報酬の決め方や変更の注意点、節税や経営計画などの観点からの役員報酬の設定水準の決め方などを解説したいと思います。
役員報酬とは
役員報酬とは、役員に対して支払う給与のうち、賞与や退職給与以外のもののことです。
役員に対する報酬について、自由に会社が役員に対する報酬を決めることができてしまうと、会社の利益を、そのときの会社の都合によって調整できてしまい、税金の逃れを助長したり、不当に高い役員賞与を決定することで会社の利益を害してしまったりしてしまいます。
そこで、商法では役員報酬については株主総会での決議が必要とされており、税法上でも役員報酬は一定の額を超えると損金不算入になるなどの取扱いが決められています。
役員報酬の取扱い
損金にできる役員報酬は税法で定められていて、それ以外の役員報酬は損金として認められず、税金がかかってしまいます。
法人税がかかるだけでなく、損金に算入されずに支給された役員報酬は、そのぶんの所得税もかかりますので、税法で定められた方法で役員報酬を支払っていくことが大切です。
あとから役員報酬をさかのぼって変更しても、税法で定められた範囲内でしか損金として認められませんので、注意しなければなりません。
(1)定期同額給与
役員報酬は、毎月、株主総会で決められた一定額を役員報酬として支給しなければならず、税法上は、原則として1か月以下の一定の期間ごとに、支給額が同額でなければ損金にすることができません。これを定期同額給与といいます。
たとえば、株主総会で、毎月の役員報酬を30万円と決めた場合には、毎月30万円を損金として計上していくことができます。
完全にこの金額として固定されているわけではなく、定期同額給与に類するものとして、次のような場合など、期中での役員報酬の変更が認められる場合があります。
①期首から3か月目までに役員報酬が改定された場合で、改定前後の支給額がそれぞれ同額のもの
商法では、定時株主総会は決算期後3か月以内に開催しなければならない、と定められています。
この定時総会で役員報酬を改定するのであれば、株主総会までは前の金額が、定時株主総会後はその株主総会で決められた金額が認められることになります。定時株主総会は議事録を作成し、保存しておかなければなりません。
②期中で、役員の職制上の地位が変更されたり、職務内容の重要な変更があった場合
期中でも、臨時株主総会によって、役員の地位や仕事内容が大きく変わる場合があります。
これを臨時改定事由といいます。臨時改定事由によって役員報酬も変更されるのであれば、税法上もその役員報酬の変更が認められます。
③業績が悪化した場合
会社の業績が著しく悪化することで、役員報酬を支払うことができなくなったり、債権者との協議で役員報酬を減額せざるを得なくなる場合があります。この場合には、臨時株主総会で役員報酬の減額し、その減額が税法上でも認められることになります。
資金繰りの一時的な都合などによる減額はこれにあてはまらないので、注意が必要です。
(2)事前確定届出給与
事前確定届出給与は、事前にいくら支払うかを確定しておいて、支払時期と金額を税務署に届出ます。その届出どおりに実際に支払うことで損金と認められる役員報酬です。
この届出は、株主総会決議から1か月以内か、決算日から4か月以内のどちらか早い日までに提出しなければなりません。
事前確定届出給与は、定期同額給与とどのように違うのでしょうか?
事前確定届出給与は定期同額給与と違い、1か月以内の定期に支払う必要がなく、毎回定額でなくても良いところが違います。
届出を提出しなければならないというデメリットはありますが、非常勤役員に対して支払う場合や、賞与のような支払い方をしたい場合、事前に入金の多い月がわかっている場合にその月にまとめて払いたい場合などには、事前確定届出給与で支払うとよいでしょう。
(3)利益連動給与
利益連動給与とは、その事業年度の利益に対する指標を基準にして、同族会社でない会社が、業務執行役員に対して支払う役員報酬です。
同族会社でない業務執行役員の報酬が、業績への貢献度合いに応じて変動する方式の会社であれば、その報酬についても税法上は役員報酬として認められます。
役員報酬の増額・減額についての注意点
通常は、役員報酬は定期同額給与として支払われることが多いので、役員報酬を変更するには、定期株主総会で役員報酬の変更を行い、株主総会議事録を作成し、これを保存しておきます。
事業年度の途中で役員報酬を変更したい場合は、増額する場合も減額する場合も、臨時株主総会を開き、臨時株主総会の議事録を作成し、これを保存しておきます。
株主総会の議事録を作成するときには、いつの支給分からの変更するのか、変更後の役員報酬は誰の分がいくらなのかを記載するようにしましょう。
期中での役員報酬の変更は、利益調整や税金逃れとみなされることも多いため、慎重に行う必要があります。
特に増額については税金逃れのためとみなされる可能性が高いため、増額を行うときには、期中ではなく定時株主総会で行うようにしましょう。
経営状態が悪化して減額する場合でもあっても、株主や債権者との関係で経営上の責任から役員報酬を減額せざるを得なかったり、多額の賠償金の支払う必要があるなどの理由で会社を存続させるために役員報酬を減額せざるを得ない、などの理由がなければ、役員報酬の変更が認められない場合があります。
役員報酬の決定の仕方
役員報酬は、定期同額給与として定時株主総会で変更するのであれば、問題なく変更することができます。
しかし、それ以外での変更はなるべく避けたほうがよいので、今までの業績と今後1年間の業績予測から、どのくらいの役員報酬が適切かを決め、定時株主総会で決議する必要があります。
役員報酬が多く会社の利益が少なければ、所得税が増えて法人税が少なくなります。逆に、役員報酬が少なく会社の利益が大きければ、所得税が減って法人税が多くなります。
特に中小会社では、役員報酬と会社の利益の配分で、支払う税金が大きく変わってくることがありますので、シミュレーションを行うことで適切な役員報酬と会社の利益を決めることが、節税をしていくポイントです。
しかし、たとえば会社に繰越欠損金がたくさんある場合で利益が出るようになってきたときには、会社の利益が増えても法人税が増えないことがあります。
この場合にも、役員報酬を極端に減らすことで節税をするのは、あまりよい考えではありません。
役員報酬は期中で増やすのは大変ですし、利益が出ている場合に役員の最低限の生活費を役員報酬でとらないことは、不自然ともいえます。役員報酬で生活費をカバーできない場合には、貯金などで生活する以外には、会社の資金から持ち出すことになり、その分は役員貸付金として計上され、金融機関などの印象が悪くなることがあります。
また、役員報酬がゼロの場合でも健康保険料や厚生年金保険料は一定額を支払わなければなりません。役員報酬を減らしたい場合にも、ゼロにするのではなく、ある程度の役員報酬を設定することをおすすめします。
役員報酬のまとめ
役員報酬は、まず会社の損金として認められる方法で決定し、支払っていく必要があります。
さらに、役員報酬の水準の決定は、会社の利益額、法人税と所得税をあわせた節税を考えてシュミュレーションを行い、最終的には、会社で儲けた利益を個人に残したいか、会社の資金としてプールしておきたいかの決定となります。
これらの一連の複雑な手続きを、経営者のみで判断し実行していく労力を考えると、信頼できる税理士などの専門家に相談しながら役員報酬を決定していくのもおすすめです。