会社員やアルバイト経験のある方なら、一度は「源泉徴収」という言葉を聞いたことはありませんか?
源泉徴収とは、個人が納める所得税を、国に代わって会社等の事業者が徴収する制度で、事業者が、従業員や外注先に給与や報酬を支払う際、所得にかかる所得税を天引きして納付するという制度です。これは事業者の義務として定められており、従業員が「天引きはしないで欲しい」と申し出たとしても、源泉徴収義務違反となってしまうため、応じることはできません。
なお、この国に納める義務のある者(会社・個人事業主)を、源泉徴収義務者といいます。
この制度は大変重要なものです。実際の事務を税理士や社労士などの専門家に任せてしまうという方であっても、経営者であれば、その仕組みについて必ず理解しておきましょう。ここでは特に、「報酬」の支払時における源泉徴収について説明していきます。
源泉徴収義務について
さて、報酬を支払う事業主が源泉徴収の義務を負うのは、以下のいずれかの条件に該当する場合になります。
- 法人の場合
- 個人事業主であって、給与の支払いをしている場合
(※ただし、個人事業主であって給与の支払者であっても常時2人以下の家事使用人のみに対する給与しかない場合は、除きます。)
対象となる報酬
ただし、すべての報酬が源泉徴収の対象となるわけではなく、主に個人に対して支払う報酬になります。
また、源泉徴収の要否は支払う報酬の内容次第であり、源泉徴収が必要な報酬を以下のとおり列挙しました。これらのいずれかに該当する場合には、源泉徴収が必要となり、いずれにも該当しない場合は、源泉徴収の必要はありません。
判断に迷う場合は専門家に相談されることをお勧めします。
【個人に対する支払】
- 原稿料や講演料など
(ただし、懸賞応募作品の入選者などへの支払については、一人に対して1回に支払う金額が5万円以下であれば、源泉徴収をしなくてもよいことになっています。) - 弁護士、公認会計士、司法書士等の特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
- 社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
- プロ野球選手、プロサッカーの選手、プロテニスの選手、モデルや外交員などに支払う報酬・料金
- 芸能人や芸能プロダクションを営む個人に支払う報酬・料金
- ホテル、旅館などで行われる宴会等において、客に対して接待等を行うことを業務とするいわゆるバンケットホステス・コンパニオンやバー、キャバレーなどに勤めるホステスなどに支払う報酬・料金
- プロ野球選手の契約金など、役務の提供を約することにより一時に支払う契約金
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金
【法人に対する支払】
馬主である法人に支払う競馬の賞金
※参考:源泉徴収が必要な報酬・料金等とは
【源泉徴収の必要がない個人に対する支払の例】
- 個人事業主のシステムエンジニア、プログラマへの支払(高度な専門的知識を要する業務は除く)
- 個人事業主の大工などに対する支払
※ただし、上記のケースにおいては、別の問題があり、両者が「報酬」という認識をしていても、税務上「給与」としての取扱いが求められるケースがあります。
源泉徴収の計算方法
では、いくらを源泉徴収すればよいでしょうか。この源泉徴収税額の計算方法は、支払金額が100万円以下か、それとも100万円超かによって計算方法が変わってきます。
支払金額が100万円以下の場合
源泉徴収税額 = 支払金額 × 10.21%
支払金額が100万円超の場合
源泉徴収税額 = (支払金額 – 100万円)× 20.42% + 102,100円
ただし、報酬のうち、以下に該当する場合については計算方法が異なっているため注意が必要です。
司法書士の業務に関する報酬・料金
(報酬・料金の額-1回の支払につき1万円)×10.21%
社会保険診療報酬支払基金法の規定により同基金が支払う診療報酬
(診療報酬の額-その月分として支払われる金額につき20万円)×10.21%
職業拳闘家の業務に関する報酬・料金
(報酬・料金の額-1回の支払につき5万円)×10.21%
外交員、集金人又は電力量計の検針人の業務に関する報酬・料金
(報酬・料金の額-控除金額※)×10.21%
※控除金額……同一人に対してその月中に支払われる金額について、12万円(別に給与の支払があるときは、12万円からその月中に支払われる給与の金額を控除した残額)
ホステス、コンパニオン等の業務に関する報酬・料金
(報酬・料金の額-控除金額※)×10.21%
※ 控除金額……同一人に対し1回に支払われる金額について、5,000円にその支払金額の計算期間の日数を乗じて計算した金額(別に給与の支払をする場合には、その計算した金額からその計算期間の給与の額を控除した残額)
事業の広告宣伝のための賞金
(賞金品の額-控除金額※)×10.21%
※ 控除金額……同一人に対し1回に支払われる賞金品の額について、50万円
馬主に支払われる競馬の賞金
(賞金の額-控除金額※)×10.21%
※ 控除金額……同一人に対し1回に支払われる賞金の金額について、その賞金の額の20%相当額と60万円との合計額
源泉徴収金額の計算例
100,000円の原稿料を支払う場合の源泉徴収額は…
【原則の方法】
108,000円(税抜金額)、消費税額(8,000円)の報酬を支払った場合
108,000円×10.21%=11,026円
【税抜き金額と消費税額を別表示させる方法】
100,000円(税抜金額)、消費税額(8,000円)の報酬を支払った場合
100,000円×10.21%=10,210円
100,000円の手取り額が決まっている場合は…
手取り額に応じて、以下のルールで計算します。
税率が21%の場合(手取額が897,900円以下の場合に限ります。)
手取額÷0.8979=支払金額 ※0.8979=1-10%×102.1%
二段階税率の適用がある場合(手取額が897,900円超の場合に限ります。)
(手取額-102,100)÷0.7958=支払金額 ※0.7958=1-20%×102.1%
よって、100,000円の手取り額が決まっている場合の計算結果は下記のとおりです。
- 支払金額:100,000円÷0.8979=111,370円
- 源泉徴収税額:111,370円×10.21%=11,370円(1円未満の端数は切り捨てます。)
- 手取額:111,370円-11,370円=100,000円
源泉徴収した所得税を納付するタイミング
徴収した源泉所得税は、翌月の10日までに(土曜日、日曜日、祝日等の場合はその翌日)納付します。
ただし、会社が給与を支払う従業員が常時9名以下の場合、給与や一部の報酬(税理士、弁護士等への報酬)に関する所得税については、納付のタイミングを年2回にすることができる特例があり、これを源泉所得税の納期の特例といいます。この特例の適用をうける場合は、予め届出が必要になるので希望する場合は手続きをするようにしましょう。
特例を受けた場合の所得税納付期限
・1月~6月の天引き分→7月10日までに納付
・7月~12月の天引き分→翌年1月20日までに納付
まとめ~源泉徴収は給与を支払う者の義務
・原則、給与・報酬を支払う者は源泉徴収を行わなければならない
・納付は原則として天引きした日の翌月10日まで
・支払金額100万以下は「支払金額×10.21%=源泉徴収税額」
・支払い金額100万越は「(支払金額-100万)×20.42=源泉徴収額」
源泉徴収は事業主が行わなければいけない義務です。納付期限までに納めないとペナルティがあり、余計にお金を払わなくてはいけなくなることもあります。仕組みを理解して円滑な経営ができるように準備しておきましょう。